「国産の野菜は安心」「輸入食品は農薬が心配」こうしたイメージは、日本の消費者の間で根強く存在しています。しかし実際には、国産・輸入を問わず、日本で流通する食品は同じ農薬基準で管理されていることをご存じでしょうか。日本では 食品衛生法(Food Sanitation Act) に基づき、国内で販売・流通するすべての食品に対して残留農薬の基準(MRLs:Maximum Residue Limits=最大残留基準)が設定されています。これは 国産・輸入の区別なく適用されます。

今回は、農薬の基準設定の考え方、国産・輸入食品それぞれの検査体制、そして実際の検査結果データなどを確認しながら、「どちらが安心なのか?」を考えてみます。

日本の農薬残留基準はどう決まるのか

日本の農薬残留基準は、「危なそう」「イメージが悪い」といった感覚で決められているわけではありません。食品安全委員会が中心となり、以下の手順で科学的に設定されています。

・動物実験などから毒性が確認されない摂取量を算出
 ↓
・そこから人への安全係数をかけてADI(一日許容摂取量)を設定
 ↓
・日本人の食生活(摂取量)を考慮して食品ごとの残留基準値を決定

さらに、日本では2006年から ポジティブリスト制度が導入され、基準が設定されていない農薬についても一律 0.01mg/kg を超えた場合は流通不可とされています。つまり、日本の基準は「分からないものは原則NG」という、かなり保守的な設計になっています。

国産食品の検査体制

国産農産物の場合、チェックは「出荷前」から始まっています。

● 農薬使用の段階管理
農薬は農薬取締法に基づき、使用できる作物、使用回数、使用時期、が細かく定められています。

● 残留農薬のモニタリング
農林水産省や自治体が、毎年、野菜・果物・穀類などを対象に残留農薬検査を実施しています。その結果、基準に適合している割合は99%以上 という年がほとんどです。

農林水産省HP

ここで重要なのは、「検出された=危険」ではないという点です。多くの場合は、基準値を大幅に下回る微量検出 にとどまっています。

輸入食品の検査体制 ― 水際で止める仕組み

一方、輸入食品は「国内に入る前」にチェックされる点が特徴です。国内流通する輸入食品についても、同じ食品衛生法の最大残留基準(MRL)が適用されます。すべての輸入食品は厚労省へ届出がなされ、輸入時には検疫所でモニタリング検査が実施され、基準に違反する食品は 通関不可、廃棄、または輸出国への返送 となります。

また、主要食料である輸入米や輸入小麦などは、農林水産省自らが到着時の残留農薬検査を義務づける体制 も取り入れています。

農林水産省HP

日本全体のモニタリングデータ(国産・輸入含む)

国産・輸入を合わせた全国規模の農薬残留モニタリング調査については、学術論文として分析されたデータがあります。この調査は 2013〜2023年度の約10年間にわたって約49万点の食品サンプル を対象に行われました。

● 主なポイント(2013〜2023)
サンプル数:約 492,484 点
検査した農薬種類:平均 474 種類/年
全体の 11.0% で何らかの農薬が検出
残留基準を 超過した割合は 0.28% にとどまる
参考文献

このデータからは、実際に農薬が検出されること自体は一定割合あるものの、基準値を超えるケースは極めて少ない という傾向が確認できます。さらにこの調査では、90%近いサンプルが「検出せず」または「基準内の検出」でした。基準超過は全体の 0.28% だけで、仮に何か検出されたとしても「健康上のリスクがほぼないと評価されるレベル」に収まっていることが示されています。

国際基準との関係

日本の農薬残留基準は、Codex(国際食品規格委員会)が定める国際基準を重要な参考としながら設定されています。Codex基準は、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が合同で科学的評価を行い、世界貿易における共通ルールとして機能するものです。WTO(世界貿易機関)のSPS協定でも、各国が食品安全基準を定める際にはCodexを参照することが推奨されています。
しかし、Codex基準は「世界全体を平均した前提条件」に基づくものであり、各国の食生活や摂取量の違いまでは細かく反映していません。ここに、日本独自基準が存在する理由があります。
農薬残留基準は、単純に毒性の強さだけで決まるものではありません。実際には、●その農薬の毒性データ ●各食品にどの程度残留するか ●国民がその食品をどれくらい食べるか といった要素を総合的に評価して決められます。

🍚 コメ(Rice)の農薬残留基準値の比較(例)

農薬名日本 の MRL(mg/kg)Codex の MRL(mg/kg)EU の MRL(mg/kg)備考
アゾキシストロビン(Azoxystrobin)0.20.20.1EU はより厳格な設定例
ベンゾフナート(Benzofenap)0.10.10.05EU 基準が低い例
ベンザルファロン(Bensulfuron-methyl)0.10.050.1Codex がやや厳しい例

🍎 りんご(Apple)の農薬残留基準値の比較(例)

農薬名日本 の MRL(mg/kg)Codex の MRL(mg/kg)EU の MRL(mg/kg)備考
γ-BHC(リンデイン)2.02.00.1EU は数値が大幅に低い例
BHC(同等化合物)0.20.20.01EU では厳格な検出限界

農林水産省 諸外国における残留農薬基準値に関する情報より抜粋

例えば、日本人は欧米に比べて米や特定の野菜の摂取量が多い傾向があります。そのため、同じ農薬であっても、日本では摂取量が多い食品に対してより厳しい基準が設定されることがあります。逆に、日本ではほとんど消費されない食品については、Codexと同等、あるいはやや緩やかな基準となる場合もあります。つまり、日本の基準は「日本人の食習慣を前提に安全余裕を計算している」という点が特徴です。

「安心」をどう考えるべきか

ここまでを整理すると、「国産・輸入で 農薬基準は共通」「検査体制はそれぞれ異なるが、どちらも多層的」「実際に基準値を超える物の率は極めて低い」「基準値を超える物は市場に出ない」ということが、データからはわかります。「国産だから安心」「輸入だから不安」という感情的な判断よりも、制度と数字を知ったうえで考え、選ぶことが、消費者側にも求められているように感じます。

\この記事をシェアする/