「有機農業は体に良く、環境にもやさしい」そんなイメージを持つ人は多いと思います。実際、有機農業は化学合成農薬や化学肥料に頼らず、自然の力を活かした持続可能な農業として世界的に注目されています。
しかし一方で、「有機農業を主流にするのは難しい」という現実もあります。本記事では、有機農業の魅力を認めつつ、なぜ大規模に広げるのが容易ではないのかを、データとともに整理します。
有機農業の魅力:環境と生態系へのメリット
有機農業の最大の特徴は、自然環境への負荷を減らすことです。化学合成農薬や化学肥料の使用を抑えることで、土壌微生物の多様性が保たれること。水質汚染のリスクが減ること。生物多様性が守られること。といった効果が期待されています。
農業の多様化や有機的手法は、長期的に土壌の質や生態系の回復力を高め、炭素固定や生物多様性の向上にも寄与することが研究で示されています。また、消費者の間でも環境負荷低減や社会貢献への意識が高まり、有機農産物を支持する動きが広がっています。
世界では広がる有機農業
世界的に見ると、有機農業は確実に拡大しています。世界の有機農地は約9,600万haで、農地全体の約2%を占めています。そして約450万人の生産者がいます。また、EUでは有機農地が農地全体の約7%に達し、国によっては20%前後という高い割合を占めています。このように、有機農業は世界的な潮流として成長しています。
日本の現状は、まだ0.7%という小さな割合
一方、日本の有機農業の割合はまだ非常に小さいのが現状です。2024年時点で、有機農業の面積は約3万ha、農地全体の約0.7%にとどまっています。政府は2050年までに有機農地を25%に拡大する目標を掲げていますが、現状との差は大きく、急速な普及には課題が多いといえます。
有機農業が広がりにくい理由
① 収量が安定しにくい
有機農業では化学農薬や速効性肥料を使わないため、病害虫の影響を受けやすい、天候変動の影響が大きい、といったリスクがあります。収量が不安定になると、農家の経営リスクが高まり、主流化が難しくなります。
② 労力と技術が必要
有機農業では、手作業の除草、土壌管理の工夫、輪作・混作の設計など、知識と労力が求められます。特に高齢化が進む日本の農業では、労働負担の増加が普及の壁となります。
③ 価格が高くなりやすい
有機農産物は、生産コストが高い、収量が少ない、認証取得に費用がかかるなどの理由から、一般的に価格が高くなります。消費者の理解が進んでも、日常的に選び続けるには価格の壁が存在します。
④ 大量供給に向きにくい
現代の食料システムは、安定供給、大量生産、低価格を前提に構築されています。有機農業は環境負荷を減らす一方で、生産効率や物流面の課題があり、急速な全面移行は難しいとされています。
有機農業 vs 慣行農業:対立ではなく共存へ
重要なのは、有機農業と慣行農業を「どちらが正しいか」という対立構造で捉えないことです。
現在、世界的には、化学農薬・肥料の削減、精密農業による最適使用、環境保全型農業の推進といったような中間的アプローチが広がっています。つまり、「持続可能性」と「食料供給」の両立を目指す動きです。
有機農業は、環境保全・生態系保護の観点から大きな価値があります。しかし、すべてを有機に置き換えるのは現実的ではないと思われます。だからこそ、地元の農産物を選ぶ、必要に応じて有機食品を取り入れる、食品ロスを減らすといった行動が、持続可能な食の未来につながります。
まとめ
有機農業は環境にやさしく、持続可能な農業の重要な選択肢です。世界的に拡大しつつある一方で、収量の安定性、労力、価格、供給体制などの課題があり、急速な普及は簡単ではありません。これからの農業に求められるのは、有機か慣行かという二択ではなく、環境と食料供給を両立させる現実的なバランスだと思います。私たちの食卓の選択も、その未来を形づくる一部という考え方が必要です。
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