皆さんの中には「農薬は体に悪い」というイメージを持たれている方もいらっしゃるかもしれません。けれども、農業にとって欠かせない存在でもある農薬。本当に農薬は危険なのでしょうか?それとも、安全に使えば役立つものなのでしょうか?今回は、農薬のメリット・デメリットを、データや具体例とともに調べてみました。

農薬が使われる理由

農薬は、作物を病気や害虫、雑草から守るために使われます。もし農薬を使わなければ、農作物の収穫量は大きく減り、価格や供給にも影響が出ます。国際連合食糧農業機関(FAO)の試算では、農薬を使わなかった場合、世界全体で収穫量が30〜40%減少するとされています。古い実験ではありますが、2008年に日本植物防疫協会が様々な作物を17年間病害虫・雑草防除をほとんどせずに栽培し、減収率と減益率を調べた結果、
「平均減収率(無農薬または無防除)」
水稲(お米) 約 24%
小麦 約 36%
大豆 約 30%
キャベツ(葉菜類) 約 67〜100%
果樹類(リンゴ、モモなど) 非常に大きな減収率、リンゴでは平均で 97% の減収(つまりほぼ全滅に近い)という試験もあり、果樹や葉菜類で特に損失が顕著であるという結果もあります。一方、水稲やトウモロコシ、大豆では減収率は平均24~30%、減益率:28~34%で比較的損失が小さい結果も出ています。日本は高温多湿で病害虫が発生しやすい環境のため、農薬をまったく使わずに安定した収量を確保するのは困難だと思われます。
今後、日本国内では人口減少がおこると推測されますが、世界的にみると、発展途上国を中心に人口は増加しています。そのため、海外に食料を多く依存している日本は食料の買い付けが困難になってくることも想像できます。国内での安定的な食糧供給は必須事項になってくると思われます。

日本植物防疫協会 資料

農薬の安全性はどう管理されている?

「農薬は体に悪いのでは?」という心配はもっともです。ただし、日本では世界的に見ても非常に厳しいルールが定められています。
・残留基準値(ポジティブリスト制度)
農産物ごとに「残っていてよい農薬の量」が厳しく設定されています。基準を超えたものは販売・輸入が禁止されます。
・農薬の安全審査
新しく登録される農薬は、毒性や環境への影響を含め、数百項目にわたる安全性試験をクリアしなければなりません。国内のデータを使って、農薬使用の現状、安全性、影響の広さを見てみましょう。

国内の残留農薬・使用状況調査

令和5年度の農林水産省の調査から:

調査対象 :国内の農産物(475戸の農家)、2,594種類の農薬×作物の組合せ検体(のべ検体数)

残留基準値を超えた検体数 :0件。基準値を超える残留農薬を含んだ農産物は検出されなかった。

農林水産省 資料

このことから、少なくとも国内流通の農産物については、現行制度のもとで「残留基準を守る」という点では非常に高い水準にあることが示されています。農林水産省の調査(令和4年度)では、国内産農産物の99.9%以上が残留基準値を下回っていたと報告されています。つまり、市場に出回る食品のほとんどは安全基準を十分に満たしています。

農薬のデメリットや課題

一方で、農薬にはリスクや課題も存在します。

環境負荷:土壌や水系に残留する可能性がある。
耐性の問題:害虫や病原菌が農薬に強くなる「薬剤耐性」が発生することも。
心理的抵抗感:消費者の「農薬=不安」というイメージ。

日本国内でも、除草剤グリホサートをめぐる国際的議論や裁判のニュースが報じられ、消費者不安につながっています。グリホサートについて、現在(2025年時点)では「使用可能」としている国の方が多いです。ただし、「完全に禁止」ではなくても 規制を強化したり、一部用途のみ禁止している国 も増えており、世界的には「制限が強まる方向」にあります。

農薬を減らす取り組み

農薬を「ゼロ」にするのは難しいものの、使用量を減らす工夫は各地で進められています。

特別栽培農産物:その地域の慣行栽培と比べ、農薬と化学肥料を5割以上減らして生産された農産物。
IPM(総合的病害虫管理):天敵昆虫の利用、抵抗性品種の導入、必要最小限の農薬使用を組み合わせる方法。
データ農業:センサーやAIを使い、病害虫発生を予測して散布回数を減らす技術。

まとめ 〜農薬は悪か必要か?〜

農薬には、
メリット:収量の安定、価格の維持、食品安全性の確保
デメリット:環境負荷、耐性、消費者心理への影響
という両面があります。

「悪者か必要か」という二択ではなく、正しく管理し、必要な分だけ使うことが大切です。
私たち消費者も、農薬の実態や制度を理解し、ラベル表示や国の検査データを参考にすることで、安心して食を選べるのではないでしょうか。

\この記事をシェアする/