今回、取材させていただいたのは、矢掛町でさつまいもと生姜を栽培されている平川さんです。菌ちゃん農法での有機栽培をしておられます。他の畑や田んぼから農薬の影響を受けないような、大自然の山の中で農業をされています。さつまいも収穫体験も毎年行っておられますが、大人に体験してもらいたいとのこと。ご自身の体験からのお話です。

YATAKA farm インスタグラム

 かなりな山の中の畑です!

私と兄はここの家で生まれました。私が3歳ぐらいまでここの家に実際に住んでいました。昭和時代に祖父母が開拓したようで、昔はほとんど田んぼでした。山の上なんですが、湧き水や井戸もあって水は結構豊富です。沢からも水がひけます。

畑の中に2か所小さい池もあります。

 農業をしようと思ったきっかけは何ですか?

成人した娘が2人いるんですが、娘達が高校生ぐらいになった頃、それまで2人ともがダンスを本気でしていたのを辞めてしまったんです。自分も一生懸命サポートしていたのが無くなって、子供にあまり手がかからなくなり、自分がやりたいことを何かしようと思っていた時、父が、私と妹に農場を手伝って欲しいようなことを言われたのがきっかけです。あいてる畑になんか植えたらどうだ?みたいな感じで言われました。最初は、えー?農業?と思っていたんですが、やっていくうちに楽しくなっていきました。元々、お花とか観葉植物を家で育てたりするのは好きだったので、植物を育てるっていう意味では野菜を育てるのも一緒かな?と思います。

畑の中にハッカが!とても香りがよくびっくりしました。

 本業は車屋さんです。

農機具の修理は得意分野とのこと。たくさんの機械があります。

実は、本業は農家じゃなくて、車屋です。農業と本業で、休みの日はほぼありません(笑)。両親が経営していたのですが、今では兄妹と一緒に家族経営で事業をしています。基本的にはそちらの方で毎日勤務をしています。長女もそこで整理士をしています。父は74歳なんですが、自動車の方は現在兄にほぼほぼ任せて、私より父の方がここで農業をしっかり行っています。車屋なので、壊れた農機具を持ってきて治して使っています。農機具ってめちゃくちゃ高いじゃないですか。娘も時々農業を手伝ってくれて、結構大きな農機具も運転して移動くらいはできます。

お父さんは車の修理に加えて木工も!職人さんです。

 何を育てていらっしゃいますか?

私の畑は,菌ちゃん農法でさつまいもと生姜を栽培しています。まだ3年ぐらいなんですけど、それまで普通に有機農法をやっていて、4年ほど前に自然農法を知って、草を重ねて堆肥を作るようなことを1年ぐらいやっていました。その後菌ちゃん農法を知ったので、切り替えました。有機栽培に関しては、15年ぐらい前から父がずっとやっています。父の畑は毎日手伝いに来てくださる方もいるので、他にもいろいろな野菜を有機農法で作っているのですが、畑は別々で管理しています。

さつまいも畑。今年は終了でこの後マルチをかけるそうです。

 有機栽培には適した土地です。

周りにも何もないので、外部からの農薬とかの影響はほぼ受けない環境で、本当に自然の中で野菜が育っている感じです。有機で育てられているところはたくさんありますが、土地の環境によっては農薬の影響を受けたりすると思っています。もともと今から15年~20年前くらいに父が始めて、何件かでグループを作って有機の認定を取りました。その頃は、まだそんなに有機栽培とか言われてなかった時代です。当時は自分たちも全然興味がなかったです(笑)。なんかまた変わった感じのことをやり始めたなぁ…くらいに思っていました。父は、好奇心が旺盛で、自分で何でもやりたいような性分なので、また新しいことに興味を持ち出したんだなっていう感じで見てました。でも自分にも子供が生まれ、自分も歳とともに体に不調が出てきたりとかいろいろなことがあって、調べてみると食べ物が影響することがわかり、それまで何とも思わずに食べてきた父が作った野菜がありがたいんだなってだんだん気づいてきて自分もやるようになり、より良い野菜ができないかというのを考えるようになりました。

周りは森。他の畑や田の影響を受けにくい土地。

それで、調べていくうちに、菌ちゃん農法とか自然農法で栽培された野菜はやっぱり違うんだなということがわかりました。最初は自分たちが食べる物だけでも、手間がかかってもより良い野菜できればいいと思って始めました。すべての種類を作っているわけではないので、野菜をスーパーで買うこともあります。キャベツだとか、人参だとか。人参は栽培が結構難しいので作っていないです。ここで作った野菜は、甘みとかが全然違うと思っています。寒暖差があるからだと思うのですが、甘いな…と感じます。父が作った野菜は、業者さんと、倉敷市内の学校給食に卸しているようですが、詳しいことは知りません(笑)。

 生姜を作ろうと思ったきっかけは何ですか?

自分が好きだからです。生姜もさつまいもも自分が食べたいと思ったものを作っています。
生姜もさつまいもも、栽培時期的にはほぼ同じです。生姜の収穫時期は10月から11月くらいです。さつまいももそれくらいで、植え付けの時期もほぼ同じです。生姜は、パウダーにして出しています。今までは生姜は生で売るか、パウダーにして販売していたのですが、今年は外部に委託してジンジャーシロップを作ってみました。出来上がったものを初めて飲んだ時は、結構辛口でびっくりしましたが、でもその辛さが癖になります。生姜の他にも甜菜糖、レモン、グローブ、八角、シナモン、唐辛子、胡椒が入っていて、炭酸やお湯で割って飲むと最高です!
菌ちゃん農法で栽培した生姜は、とってもワイルドでした。結構辛口ができて、めっちゃくちゃパンチのある味に仕上がっていてびっくりしました。マルシェで試飲販売したのですが、男性の方がが辛口が好きなようで、よく売れました。夜のマルシェで結構寒かったので、ホットのジンジャードリンクはちょうど良かったです。

掘りたての生姜は、小さくてもかなりパンチのある味わい。

 忙しく働いている人にこそ、癒しの時間を!

私が作ったさつまいもと生姜はネットで売るか、体験農園で掘ってもらっています。1年のうちに何回か開催しています。今年はインスタグラムだけで集客して、日頃から見てくださってる方だけに来ていただこうと思い、ちょっとこじんまりとやりましたが、結果たくさんの方に参加いただきました。自分の畑は手作業で掘るしかなく、機械で掘ったりとかできないので、最初は本当にお芋を掘るのが大変だからっていうことを考えて体験農園を始めました。
今は、個人的には大人の人に来てほしいなと思っています。忙しい人に癒し体験を提供したいと思っています。大自然の環境に身をおいて土に触れることって、すごく「幸せホルモン」がでるんです。土を触っていると、疲れが違うんです。仕事で疲れるのと、畑仕事をして疲れるのは全然違うんですね。心地よい疲れというか、「あーよかった」みたいな。畑仕事をするとクッタクタになるんですが、嫌な疲れ方じゃないので、そういう感覚を体験して欲しいと思ってやっています。自分がそういう体験をして、自然の力ってすごい!っていうのを実感しているので。だから別にお芋掘りじゃなくてもいいかな…とも思ってます。
ここは、かなり山の中なので、来られた方は「すっごいですね!」と皆さんに言われます(笑)。本当に普段とは違う体験っていうか、そういうのを味わってもらいたいと思います。車で山を登ってる途中から空気がちょっと変わるんじゃないかな…と思います。

本当に山の中ですが、わかりやすい看板があります。

 さつまいもは掘ってから追熟が必要です。

さつまいもは掘りたてを食べるのではなく、すこし置いておく方が甘くなって美味しいです。だいたい1ヶ月くらいですかね。それくらい置いたら、美味しくなるかなと思います。スーパーで買ったお芋も、甘みが足りなかったら少し置いておくと甘くなるかもしれません。

甘くなると蜜(黒い部分)が出てきます。

紫芋は最初全然甘くないんですが、これも2ヶ月とか置いてると甘くなってきます。父は紫芋って甘くないし、売れないから…みたいなこと言ったんですが、ネットで販売したら他に売っているところないからか良く売れます。綾紫っていう品種なんですが、色がとても濃いのでお菓子を作ってもきれいに色が出て人気です。

 カフェも作りました。

とてもかわいいカフェです。

ここのカフェはいつも開いているわけではないです。体験農園に来られた方が利用する感じにしています。普段、”何曜日にやってます”ということではないです。ロースイーツの加工場としても使用しています。もともとスイーツを作るのは好きでしたが、ロースイーツって何なのかを全然理解していなくて、習いに行き始めて知りました。小麦、砂糖、乳製品、卵、動物性油脂を使っていなくて、焼いてないです。基本は,全部火を通さないんですが、さすがに紫芋とか栗とかは火を通さないといけないので、完全にロースイーツとは言えないんですけが、他の材料は全部火を使わずできています。

ロースイーツの紫芋のモンブラン。色もきれいで美味しいです。

 食べる物と体は直結していると実感します。

普通のお菓子も食べますが、小麦はあまり食べないようにしています。食べるとずっしり身体が重いなっていうのは実感するようになりました。私の妹はもともと肌が弱いので、今あんまり小麦食べてないからか、たまに食べるとかゆくなったりしているようです。
娘達がダンスをしていた時期は、夜遅くまでレッスンをするのに自分も付き合ったりしていたので、晩御飯もお惣菜とかレトルトとか食べることも多かったです。そうすると、やっぱり身体が不調になって、精神的にも追い詰められてしまっていましたし、食べることってやっぱり大切だなと思います。

 趣味は何ですか?

着物着るのが好きです。以前、2年間くらい表町商店街のマルシェに出店していた頃、着物を着て売っていました。デニムの着物とかを着て売ってたので、”着物着て野菜売ってる人”みたいな感じでずっと思われていたと思います(笑)。あとは雑貨とかをを作るのも好きです。アクセサリーなども作って売っていたこともありました。やりたいことしかやらないです。やりたいことがたくさんあって困っています。
車を運転するのは好きですね。山はいつも見ているので、海を見にドライブに行きたいと思ってしまいますね。

立派な柚子の木はあります!

 日本の農業に関して思うことってありますか?

今、日本で有機農業の割合が0.5%くらいの耕作面積。確かそのぐらいだったと思うんですけど、それを2050年までに25%にするという”みどりの食料システム戦略”というのがあるんです。実現できるような数字には思えないのですが、本気で実現しようとしているのであれば、補助金とかの設定があっても良いと思っています。有機JASとか、岡山有機とかもそうなんですが、認定されるにはお金がかかるし、更新するにもお金が必要となってきます。それだと、農家さんも食べていけないだろうと思います。

有機の農地を増やしたいって言ってる割にそんな感じですし、書類もものすごく手間がかかります。うちも有機の認証をとっていますが、認証をとったことですごく売れるかって言ったら、そういうので買ってくれる人もいるかもしれないですけど、自然栽培で栽培してますって言うだけで、買ってくれる人もいると思います。有機認定を取り、認定シールが貼れるためだけにお金を払ってまでするのか?という感じです。いろいろな縛りもすごくて、そこまでやる必要はあるのかな?と思います。「農薬とか化学肥料を使っていません」と言ったら、消費者はそれで理解してくれたりしますし。有機農業を増やそうとするならば、もう少し制度設計をし直した方が良いのではないかと思います。

有機栽培の認定を取るのは、労力とお金も必要。

 これから先、やってみたい事はありますか?

体験農園のお芋掘りだけではなくて、土づくりの体験とかもやってみたいです。菌ちゃん農法では、1回土作りができたら3年くらいはそのままでいい感じになります。うちは体験農園をしているので、収穫の後、冬の間に畝を立て直してマルチを貼るという作業が発生します。まだ、土が完全にふかふかの状態にはなり切っていない場所もあります。本当に土がふかふかになったら、お芋もスッと土から抜けるんです。5~6年くらい経ったらマルチを張ることもしなくなって、本当に自然の感じで草マルチだけで大丈夫になるんですけどまだそこまではいってないです。
海が見える畑を持って、柑橘類を育ててみたいとも思います。

 異空間で心地よい大自然を満喫させていただきました。

筆者は訪問させていただき、本当に日常とはかけ離れた空間に身を置いて、心地よくなりました。自然の中で幸せホルモンが脳内分泌されたのが実感できるようでした。掘りたての生姜をいただき、家に帰って千切りにして生姜焼きを作ったのですが、火を通しても全く風味が落ちず、パンチの効いたとても美味しい生姜焼きが出来ました!
有機栽培についは認定のハードルも高く、参入や維持には高い障壁があるように感じますが、とても美味しく安全な野菜ができるので、期待は高いです。

\この記事をシェアする/