今回、取材させていただいたのは岡山市で主に人参と大根を生産されている秋山さんです。
はじめてお会いした時から人参色の作業着を着用されていて、第一印象からも明るく朗らかな「人参農家さんだ!」ということが伝わってきました。
農業を始めたきっかけ
実家が農家で、物心ついたときから祖父母と実母がやっていたのを見ていたので、自然に農業というものに入っていったというか、はめられたという感じです。実父は会社員で、土日に農業をしていました。忙しい時期は、朝5時ごろから農業を手伝って会社に行き、帰ったらまた農業を手伝っていたのですごいと思っていました。兄も一緒に農業をしていたのですが、数年前にそれぞれ独立した形で経営をすることになりました。現在も兄は近所で同じように農業をしていますが、お互いマイペースでできてよい感じです。
農業を始めた歳と言われたら18歳くらいとしましょうか。その時は、祖父の名義で農業をしていたのですが、それを18歳くらいで自分の名義に変えました。高校は途中で依願退職をしています(笑)当時、けがで入院をしていて、退院したら仕事もしないと…ということでリハビリがてらの農業でもありました。その頃は人参の収穫期で大変ではありましたが、農業の面白さに気づきそれから農業一筋です。

秋山さん
地域とのつながりは大切
当時はこのあたりも40歳~50歳の方の農家が多かったです。うちの家は農地をあまり持っていない家だったのですが、近所の農家の方の『後継ぎがいないから』という理由で、農地を任せてもらうことが多くなりました。任せられた農地を維持して、荒れた土地を出さないように努力しています。他にやりたいこともなかったのかもしれないですが、辞めようと思ったことはありません。しっかりとやっていれば、仕事もできて遊びにも行けてという感じでした。もともとの基盤とか、地域のつながりとか、実績があったことも大きな要因かと思います。きっと新規就農の方とかには参考にはならないですね。

広大な大根畑
農家で良かったところは何ですか
まず農業が嫌いじゃないということ。そういう仕事で『普通の生活』ができるのもいいなと思います。仕事の量を自分で決められるので、子供との時間も作れます。売上に対しても産直市場とかにも出すようになってきて、適正な値段を決めるといくらでも売れるのではないかという感触があります。やり方を変えたらいくらでも儲かりそうとか。新規で就農する方にはそういうところもしっかり研究して、計画をもって出荷できたら農業で生活していけると思います。地域の中で協力して、新規就農の人が増えたらいいなと思います。

大根収穫は人手が必要
農業でつらいのは作物が全滅すること
農業をやっていて、いちばんつらいことは作物が全滅することです。1998年の水害でも土ごと持っていかれて、下流にあったブドウの棚に大根がぶら下がっていました。2018年の西日本豪雨では、畑の土が流されてしまったのですが、あれはつらかったですね。あの時はパクチーが2反ほど収穫直前だったのですが、水が流れ込み、土ごと持っていかれました。水害の時にできることは機械を守ることくらいしかできません。
西日本豪雨の時は機械の補助が9割出たので、機械が新しくなりました。流された土を復旧するのが一番大変で、その時のいろいろな要因によって、土が復活するまでの時間のかかり方も違います。他のところから補填できる土があるかどうかや補填する土の性質によっても、その後の土の出来あがりが違ってきます。
いろいろな人とつながりができるのも楽しい
水害に関しては、ダム管理の方とも話し合いをしました。おかげでダムの水の出し方も少し変わりました。地域性にもよりますが、さまざまな分野の方とのつながりというのは大事になってきます。
他にも、農家や地域の人だけではなく、市場関係者とか農協の職員さんとか。職員さんとは別の業種へ転職されても、転職先の業界が農業関係でしたら、そちらの知識や技術を取り入れたり協力してもらえることが多いです。
作物についてこだわりはありますか
こだわりは特にありません。自分の土作りが良いのか、元々の地域の土が良いのかわからないですが、大根にしても人参にしても甘いものが採れます。知り合いに配っても評判が良いです。人参嫌いな子が人参食べられたと聞くことが多いですね。
多少の有機的なことは取り入れながらやっていますが、自分が必要だと考える肥料などは使っています。それで美味しい野菜ができているのはありがたいなと思っています。これを直接お客さんに届けて美味しいと言われるのはうれしいです。近場で採れる野菜をしっかり食べてもらいたいと思っています。
土のために米作りを再開しました
米はしばらく作っていなかったのですが、米作りをやめてから土が硬くなってしまって、丸い大根ができなくなりました。藁をいれないと土が良くならないことに気が付いたので、藁を入れるために米をまた作るようになりました。藁には有機物が入っているので土に入れるとすごい力を発揮してくれます。この地域は砂地で、米作りにはあまり適していない土壌なので量はとれないのですが、おいしい米が収穫できます。
忙しい時は1日18時間くらい働きます
忙しい時期は単発で寝ずに働くこともあります。いちばん忙しいときは、1日18時間ぐらい働くこともあります。大根の収穫シーズンは1か月ほど続くのですが、この時期がとっても大変ですね。大根の収穫に関しては手作業で収穫しています。収穫の機械もありますが、1000万円くらいするので、畑をもっと大規模にしないと元が取れません。機械で収穫するとサイズ関係なく収穫するので、サイズがいいものだけ取りたい自分達にはそれもあいません。大根は収穫後の洗う作業にも時間がかかるのですが、収穫後から出荷するまでに7時間かかったりします。直売所向けの袋詰めとか人を雇ってやってもらうと時間が短くなって助かっています。市場があいている時に合わせて収穫するので収穫がない日は楽ですが、その日は畑仕事以外のことをするのでその方が忙しかったりもします。寝る時間が少ないことに対しては、子育ての夜泣き対応をしていたので免疫がついています。
モチベーションが続いていたら長時間の作業もできますが、それが切れた日は基本的には作業しないと決めています。それでもやらないといけないことがある場合、昼からお酒を飲みながらだらだらと作業をします。コロナの前は夜に飲み会に出かけていたのですが、コロナの後は飲み会に行かなくなり、家で飲むようになりました。今は、飲みに行く方が安いのでは?と思うくらい、家での酒代がかかります。
マイペースで仕事していますが、人からはマイペースじゃないよねと言われます。アルバイトに来てくれた人に大丈夫でしたか?と聞くと、だいたい、「いや、きつかったです…」という返事が返ってきます(笑)。
挑戦してみたい作物はありますか
別の野菜を育てたこともありますが、長続きしなかったです。もうちょっと時間に余裕があったらできるかもしれないですが、メインの野菜が忙しくて中途半端になった気がします。ビーツを有機でやってみたけどだめで、サツマイモも手間が取れず管理作業が後手後手になってだめでした。かぼちゃは自分に向いてない気がしてやめました。小さいころから慣れている野菜のほうが良くて、短期集中型の作物が好きです。毎日こつこつ作業をするような方が儲けはいいのだと思いますが、時間も削られるし飽きます。大根と人参は作業に飽きた頃終わるので、続けられる感じです。毎シーズン収穫の最後の日はもう終わりかぁという感じで寂しくなります。
昔、黄にらを栽培していたのですが、忙しくて手が回らなかったため諦めていましたが、もう一回黄にらにチャレンジしてみようかと思っています。義母に「定年したら農作業をすればいいのでは?」と提案しています。力仕事がほぼないので、義母でもできるのではないかと思っています。一緒に作業できるかもしれないので、楽しみですね。
農業の未来について考えることはありますか
日本全体の農業で言えば、担い手が減ってしまっていて、結局のところ耕作放棄地が増えていってしまう。とにかく人がいない。農業をやってみたいという人もいない。仲間内でも努力しますが、少しでも農家が長続きする仕組みが必要だと思います。何かと互いに手助けがいるので、地域の仲間は必要です。地域で助け合いながら、農家の仲間が長く続けていけるようにしていきたいと考えています。

お父さんも元気に畑仕事をこなされます
さいごに
大切なことは、勉強を続けていくことです。最近は、肥料や資材も価格が上がっていますが、売価はそこまで上がっていません。同じ面積でとれる量はだいたい限られているます。技術で生産量は向上できるらしいので、それも勉強しなければいけません。
今は、転換点のような時期に来ているのかなと思います。やみくもにやってもダメそうですが、結果が良かったとか悪かったとかの判断も難しいので、試行錯誤中です。いろいろと面白い資材も出てきているので、それを勉強しないといけないなと思っています。
お話を聞いて感じたこと
とてもやさしい印象の秋山さん。ですが、ハードな仕事を平気な顔して淡々とこなしていくタフな方でした。地域と密接につながる農業は、人とのつながりを大切にしながら農家だけではなく、地域全体を守っていく農業のやり方だと思いました。災害も増えていく昨今に、これもまた大切なことだと思います。
\この記事をシェアする/