今回、お話をお聞きしたのは、岡山市の『レイヴンファーム』で活動をされている片山さんです。

とても印象的だったことは、お会いしてすぐに『野菜を育てたことはありますか?』と質問されたことでした。

なぜ農業をしてみようと思われたのですか?

日本体育大学卒業後、スポーツトレーナーを目指しキネオロジーを学ぶために25歳でアメリカに留学をしました。留学中に各地を旅行した際、現地の人の農業や家庭菜園にふれるエアルームに出会いました。

私が解釈したエアルーム品種の定義は、固定種の中でも
①先祖代々一族やごくちいさなコミュニティの中だけで限定的に栽培されてきた品種であること、
②その歴史が1940年代(WW2)までに少なくとも50年以上(中には数百年も)続いていたこと、
③②の期間中たねや農産物が非営利目的で栽培・取引されていたこと…です。

レイヴンファームについて
https://note.com/ravenfarm/n/ne256e36786ba

興味を持って調べていくうちに、おもしろい!という感覚を持ちました。コロナで学びがオンラインとなり帰国休学を経て、自宅で家庭菜園を始め楽しさに気づきました。

カストロールディパルマというイタリアのカタルーニャ地方のトマト

エアルームの魅力は何でしょうか?

家庭菜園を始めた時の本質的な目的は家族でおいしいものを食べるということでした。エアルーム野菜は家庭での消費を目的としていたため、実が柔らかく輸送に向かなかったり、形が均一でなかったり、同じ品種でも収穫時期がずれたりします。家庭菜園ではこれらの要素がデメリットにならず、むしろ個性を楽しみ、長期間に渡って収穫も楽しむことができます。

現在はエアルーム野菜の種をネット等で購入し、自宅の畑で栽培しています。現在、夏場は90%、冬場は30%くらいで野菜については自給自足できている感じです。マルシェイベント等に出向いたときや、インターネットを通じて他の農家さんと種を交換して栽培もしています。

成長したスイスチャード

スイスチャードの種を収穫

種を採取するには時間と手間がかかりますが、栽培と採種を繰り返すうちにその土地や気候に合った形質を獲得し育てやすくなります。日本ではエアルーム野菜の存在はほぼ知られていないのですが、種交換会で出会った方の中にはご存じの方も多いです。あまり知られていないですが、エアルーム野菜を栽培されている方は全国各地にいらっしゃるかもしれませんね。

スイスチャードは8月から9月に種まきをして、2か月くらいで収穫します。秋冬のうちに収穫して、次の7月くらいには種を採取できる状態になります。種によって寿命があるのですが、スイスチャードの種は寿命が4~5年あるので、毎年採取する必要がありません。種を採取するまでの1年は動かすことができないので、畑のどの場所に植えるか計画することが大事です。

家庭菜園をする人を増やしたい

家庭菜園をする人が増えることが一つの目標です。自分の手で育てて、おいしく調理し、家族で食べること。一昔前まで、このシンプルな流れは多くの人の日常だったと思います。現代では、忙しくて時間の余裕がない人にこそ噛みしめることができるささやかな幸せではないでしょうか。自分で育てて収穫してみて、ありがたみを知ることで、いつもの食事が何か特別なもののように感じるかもしれません。そうなるには世の中の方が忙しすぎることは理解しています。世の中がいくら忙しくても野菜の成長はゆっくりです。そんな時間を畑で感じることが私にはしっくりきます。

ナスに見えますが、ミニトマトです

ミニトマトの種は、ゼリー質のまま2.3日容器に入れて置いておくと種だけきれいに取れます。それをキッチンペーパーなどでくるんで乾かし、封筒に入れて冷蔵庫など、涼しいところに翌年まで保存しておきます。トマトは実ができた時点で種も完成しているので簡単です。

家庭菜園を増やすための活動は?

家庭菜園を実践する人を増やすべく、地道に活動しています。
●黒豆(種)を配布して栽培してもらう
●エアルーム野菜についての冊子を作る
●種交換会に参加/個人レベルでも交換
●エアルーム野菜の苗を販売・配布 等の活動を行っています。
毎年とまではいかなくても、種から野菜を自分で育て収穫する体験をされた方たちからは、『楽しかった!』 『「一粒万倍」を実感した!』 とのお声をいただき、大変うれしく思っています。

また私には、押し花・ガラスフュージング・ミシン刺繍などのクラフト活動をしている母がおり、年に一度共同でイベントを主催しています。以前黒豆を配布したのもこのイベントで、今年はスタンプラリー企画のプレゼントに農産物の他、自家採種の野菜/ハーブ苗を用意しています。

今年のイベントのご案内

レイヴンファームインスタグラム
https://www.instagram.com/little_field_raven?igsh=a2RkYWI5bzRzMmk3

各家庭ごとの野菜の味を

お隣さんのカレーライスの味が違うように、同じ野菜にも各家庭味・個性がでる…ということが面白いと思っています。ご先祖様が食べていたものを、時代を超えて味わえるというのは壮大なロマンです。自給自足が当たり前の昔だからこそ、自分が「来年もまた食べたい」と思った野菜の種を採ったはず!中には口に合わないエアルーム野菜もありますが、「これを美味しく食べていたのかな?ただ育て易かったのかな?どんなメリットがあったんだろう?」と想像できるのもまた一興です。次の世代に「家庭の味」として育てている物を残していくという感覚がみんなにも根付き、独自のエアルームが育っていくといいな、と期待します。

ズッキーニの雄花

初期は雄花がたくさんつくので、雄花を取ってガク(萼)や花粉を取り除いて食べます。イタリアでは、花のめしべを取ってフィリングを詰めて揚げて食べるそうです。炒めるとつくしのような味がします。

UFOズッキーニ

UFOズッキーニも食べるのは小さいほうが柔らかくて美味しいですが、種を採取するためはカボチャのように硬くなるまで育てます。3月に種をまいて、収穫できるのが5月中旬からです。夏が過ぎたら種が採取できるようになります。

かっこいいことが大好き なんでも自分でトライしてみたい

かっこいいことが大好きです!年に1回、趣味のバイクレース観戦を兼ねて軽トラックで関東へ行っています。岡山から高速道路を使わず一般道で行き、各地の道の駅を回り、そこでしか出会えない野菜をたくさん試します。

最後は母の実家の新潟まで足をのばし、祖母の実家では毎年レンコン堀りをさせてもらっています。軽トラックをキャンピングカー代わりにして、荷台で寝たり親戚や友達の家に泊めてもらったりして、3週間程度の間に荷台いっぱいに野菜を積んで帰ってきます。群馬でこんにゃく芋を買って帰り、こんにゃくも作りますよ。いろいろなことに興味があり、何でも自分でやってみたい性分なので楽しんでいます。食べることも大好きで、料理もします。育てた野菜を使って異国の料理や保存食などを作ることもあります。現在野菜の収穫量が安定していないので、家族で食べるのと、たまにマルシェで販売をする程度です。

フィッシュペッパーという品種のとうがらし
赤くなっているのは完熟です

収穫したとうがらしを使ったピクルス
輪切りにしてピザに乗せたら美味しいです

調味料としてすごく万能で、刻んでしょうゆに漬け込んだり、にんにくと一緒にしておきます。アメリカの北東のチェサピーク湾あたりの黒人コミュニティで栽培されていたエアルーム唐辛子です。カリブのほうから来た品種ではないかと思っています。名前の通り魚介料理の隠し味に使われていたそうです。

お話を聞いて感じたこと

大規模に野菜を作り日本人の食を支えてくださっている農家さんもいれば、多くの人に向けて行うことは難しいけれども周囲の人に農業の楽しさを伝える活動をされている方もいるんだど実感しました。
どちらも今後の日本にとって大切なことだと感じました。

\この記事をシェアする/